脳の可塑性とVR

補足。今でも遠隔で操縦できるロボットやドローンは存在する。でも、自分がロボットやドローンだと感じる人は少ないと思う。これは、ヒトの操作量が直感的に即座にフィードバックされる操作システムと立体視がないためだ。いうなれば分厚い軍手をはめた手だとか操作性の悪いマジックハンドを使って、望遠鏡や顕微鏡越しに、世界と触れ合うしかなかったようなものだ。

VRでここのインタフェースが改善されると、まるで自分が対象のロボットやドローンに入って自在に動いているような感覚が得られるようになる。

たとえばVRChatではアバターを変えれば巨人や小人になることができるけど、これは別に巨体や小さい体を遠隔操作している感覚ではなく、自分自身のスケールが変わっただけで、その体は自分のものだと感じる。だから、仮に操作対象がアバターではなく大型や小型の人型ロボットになったとしても、同様のフィードバックを実現し得るのであれば、実質的な身体拡張が可能となるわけだ。

この意味で、VRは現実の拡張であると同時に、人間の存在感の拡張を可能とするものでもある。

脳の可塑性は、脳の機能が固定的なものではなく、周辺の状況に応じて変わり得ることをいう。たとえば脳卒中などで脳機能の一部が失われても周辺の部位が元の機能を補完する場合がある。この性質によって、適切なフィードバックの体系が構築できれば、本来なかった役割を脳が担うことがあり得るわけだ。つまり、実質的に身体が拡張できる可能性がある。実際に、筋電義手といって筋電位を使って、巧みに義手をコントロールする人達がいる。更には、人が意思でコントロールできる第三の腕をつくる研究もされている。

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こうして拡張される身体に、VRが果たす役割は大きい。脳への情報入力の経路として視覚は帯域と遅延の面で優れているため、フィードバック提示の経路として有効だから。

課題は、人から情報を出力できる帯域が限られていることだけれど、VRによって物理装置なしで制御可能なものが提示できることで、人が情報出力する際の訓練をしやすくなることを期待している。こうしてヒトがコントロールできる身体は、実質的にVR空間に拡張されていくことになる。これは同時に、ヒトに新たな身体が与えられ、新たな現実が与えられることを意味する。物理的身体と物理的空間に留まらずにヒトの可能性が拡張できるようになるとしたら、面白い時代になるよね。